災害発生状況の分析 vol.5
「自転車の自損事故の災害発生状況」~令和5年度 日本フルハップ災害防止統計資料より~
日本フルハップは、仕事に従事しているときのケガだけでなく、交通事故を含め日常生活全般のケガを補償対象としています。
この度、令和5年度のケガの発生状況等についてまとめました。皆様のケガの防止にお役立ていただければ幸いです。
日本フルハップは、仕事に従事しているときのケガだけでなく、交通事故を含め日常生活全般のケガを補償対象としています。
この度、令和5年度のケガの発生状況等についてまとめました。皆様のケガの防止にお役立ていただければ幸いです。
災害発生状況の分析vol.4「令和5年度 業務中・業務外災害発生状況」では全体の災害発生件数が22,305件に対して、業務中では9,403件(42%)であり、業務外では12,902件(58%)となるなど、業務外の災害発生件数の割合が前年度より増加(前年度比+3ポイント)していることを解説しました。
今回は業務中・業務外災害発生状況に関して、原因や事故形態別に分析し、今後のケガ防止にお役立ていただくための対策をご紹介します。
原因別災害発生件数(参照:令和5年度 原因別災害発生状況)の上位である「転倒」、「交通事故」、「墜落・転落」について、業務中・業務外の災害発生割合を比較すると、「交通事故」において大きな差がみとめられました。
この結果から「交通事故」は他の原因に比べ、業務外でのケガの危険性が高いことが分かります。
交通事故の中でも業務中は「4輪で相手車に追突され」が最も多く、次いで「4輪で相手車と衝突」が多くなるなど、4輪での事故が多い傾向にあります。
一方、業務外では「4輪で相手車に追突され」が最も多いことは業務中と共通していますが、次に多い「自転車の自損事故」については他の事故原因と比べて特に業務中と業務外の差が大きくなっていることが分かります。
自転車運転中の携帯電話使用等に起因する交通事故が増加傾向であること及び自転車を酒気帯び状態で運転した際の交通事故が死亡・重傷事故となる割合が高いことから、交通事故を抑止するため、道路交通法が改正され、新しい罰則規定が整備されました。(※1)
続いて、業務外の「自転車の自損事故」に注目して、発生件数を見ていきます。
性別と年代別に見てみると、「70代女性」が96件と最も多く、次いで「50代男性」が71件となっています。
まず、男性は50代が男性全体(288件)の約24.7%を占めており、高齢でなくてもケガの危険性が高いことが分かります。
一方、女性は70代が女性全体(265件)の約36.2%を占めており、特に70代以上をみると女性全体の約52.1%に達しているため、加齢に伴ってケガの危険性が高くなることが分かります。
自転車の自損事故621件のうち、ケガの原因が特定できない41件を省いた580件でケガの原因の分析を行いました。
580件のうち、業務外の50代男性の事故は68件あります。
事故の原因を多いものから順に3つあげると、「段差に乗り上げる」が25件、「路面で滑る」が13件、「バランスを崩す」が8件となっています。
中でも、「段差に乗り上げる」・「路面で滑る」が全体の約55.9%を占めていることから、道路環境によるケガが多いことが分かります。
・車道と歩道の間の段差でタイヤが滑り、自転車ごと転倒した。
・帰宅中、足元暗く段差にタイヤを取られ、横転した。
・大雪の後で路面が凍結していたため、滑って転倒した。
「道路上で段差に乗り上げる際に引っ掛かり、自転車ごと転倒した」というケースが多く見受けられます。
50代になり、バランス力や反射神経は衰えつつも、若いころからの運転習慣が変わっていないことで、いつも越えられていた段差でも、引っ掛かって自転車ごと転倒してしまうことが考えられます。車道と歩道の段差の前では一時停止するなど、注意して走行しましょう。
自転車で車道を走行途中、沿道にあるお店に立ち寄ろうと歩道に乗り上げた際、車輪が縁石を乗り越えられずに横滑りして転倒――或いは転倒までには至らなくとも、ヒヤリとした経験は誰しもあるのではないでしょうか。
横滑りを防ぐためにはなるべく直角に近い角度で進入することも有効ですが、まずは歩道に進入する前の一時停止を忘れないようにしましょう。
法律上、自転車は車両に該当するため、自転車歩道通行可の標識がある場合など歩道を通行できる場合があるものの、歩道に進入する前には一時停止して、歩行者の安全確保をするよう義務づけられています(参照:道路交通法第17条)。
歩道進入の前に一時停止して乗り入れることで、転倒防止につながります。
車両は、歩道又は路側帯(以下この条において「歩道等」という。)と車道の区別のある道路においては、車道を通行しなければならない。ただし、道路外の施設又は場所に出入するためやむを得ない場合において歩道等を横断するとき、又は第四十七条第三項若しくは第四十八条の規定により歩道等で停車し、若しくは駐車するため必要な限度において歩道等を通行するときは、この限りでない。
2 前項ただし書の場合において、車両は、歩道等に入る直前で一時停止し、かつ、歩行者の通行を妨げないようにしなければならない。
580件のうち、70代以上の女性の自転車の自損事故は138件あります。
事故の原因を多いものから順に3つあげると、「バランスを崩す」が50件、「前や脇道から来た人や自転車を避けきれず」が29件、「段差に乗り上げる」が21件となっています。
中でも「バランスを崩す」・「前や脇道から来た人や自転車を避けきれず」が全体の約57.2%を占めていることから、身体機能の低下によるケガが多いことが分かります。
・自転車に荷物を積みすぎていたため、バランスを崩して転倒した。
・坂道を上っている時に踏ん張れず、バランスを崩して転倒した。
・脇道から自転車が急に飛び出てきたため、避けようとしたらバランスを崩して転倒した。
「重い荷物や坂道でハンドルを取られてバランスを崩した」というケースでは、加齢とともに腕や脚などの筋力が低下することで、ハンドルを制御し切れなかったり、ペダルの踏ん張りがきかず、転倒することが考えられます。
また、「脇道等から急に自転車や人が出てきたため避けようとして転倒した」というケースでは、加齢に伴う身体機能や判断能力の衰えにより、視野が狭くなっていたり、危険を予測して素早く対処することがやや難しくなっていると考えられます。
有効視野は中心視と周辺視から成っており、私たちは必要な情報を中心視で捉えると同時に、周辺視でも次に注視すべき点を検出し、中心視で順次確認していくことで情報を得ていますが、加齢に伴って中心視・周辺視のパフォーマンスは低下します。特に高齢者は周辺視のサイズが縮小し、それがパフォーマンスの低下に大きく影響しています。
Owsley(1994)は、56歳~90歳の294名について、自動車事故回数(実験前5年間と実験後3年間、自分に責任のあるもの)と視感覚機能、認知的機能、有効視野などを指標とした相関分析を行った結果、最も高い相関を示す指標は有効視野であることを報告しています。(※3)
この研究は自動車事故を対象としていますが、70代女性の自転車自損事故についても、本文事例の中で、「相手が急に飛び出してきた」と述べていることから、有効視野の縮小により、近づいてくる相手を認識しづらくなっていることが事故の一因と考えられます。
※2 与えられた課題において、知覚者が情報を検索、弁別、処理、ないしは貯蔵しうる注視点の周辺領域のこと
※3 石松一真・三浦利章(2002).”有効視野における加齢の影響:交通安全性を中心として”,大阪大学大学院人間科学研究科紀要.2002,28,p15-28
50代男性は道路環境によるケガが多いため、路面の状態に注意しながら走行しましょう。
雨や雪の日に路面が滑りやすくなることは当然ですが、晴れていても車道から歩道に進入する際の段差で転倒するケースが多くなっています。
車道から歩道に上がる際は、一時停止をして直角に進入するようにしましょう。
また、50代は若年層と比べると、筋力が低下し、バランス能力が衰えるため、体勢を崩してしまうと転倒に繋がりやすくなります。運転に対する意識を見直し、より一層安全運転を心がけましょう。
70代女性は身体機能の低下により、ハンドルを制御し切れなかったり、ペダルの踏ん張りがきかず転倒するケースが多くなっています。これからも安全に乗り続けるために、日頃から運動を行いましょう。
特に有酸素運動や筋力トレーニングに、バランス運動も加えたマルチコンポーネント運動が効果的です。
個々人によって、体力レベルや疾病の状況が大きく異なるため、かかりつけ医や運動指導者に相談して、安全に進めるようにしましょう。
また、脇道等から急に自転車や人が出てきたため、避けようとして転倒するケースも多くなっています。
加齢に伴う視野の縮小や判断能力の低下は避けられるものではありませんが、脇道からの飛び出しのような急激な変化に対応できるよう、交差点では速度を抑え、意識的に前後左右の安全確認をしながら走行しましょう。
また、雨天時や夜間、交通量の多い時間帯など比較的危険度が高い状況では運転を控えることも一つの有効な対策といえます。
自転車を安全に利用するために「自転車安全利用五則」を遵守しましょう。
自転車乗用中における死亡事故(令和元年~令和5年合計)のうち、約5割が「頭部」に致命傷を負っています。
また、ヘルメットを着用していなかった方の致死率は、着用していた方に比べて約1.9倍高くなっていることから、乗車用ヘルメット(令和5年4月1日より着用が努力義務化)は、事故の被害を軽減するものとして効果があります。
さらに、乗る前には必ずブレーキ、タイヤ、ハンドル、車体、ベル(ブ・タ・ハ・シャ・ベル)の点検をしましょう。
特に、車体にはライトだけでなく、反射材を取り付けることで、死亡事故が多発する薄暮時間帯(日の入り前後1時間)の事故防止に効果があると考えられます。