災害事例(ケガを防ぐために)
日本フルハップ
会員広報誌「まいんど」
2025年9月号より
日本フルハップは、仕事中・仕事外を問わず、24時間中のケガに対する補償を行っています。令和6年度の災害発生件数は21,388件で、そのうち「挟まれ・巻き込まれ」による事故は803件発生しており、手指等を切断するといった重大な事故に至るケースもあります。
今回は、災害(事故)防止の参考としていただくため、金属加工会社での作業中に発生した「挟まれ・巻き込まれ」による事故の事例を、ご紹介いたします。
【事例】
金属加工会社で、製品の設計・加工に従事しているAさん(62歳・男性)は、これまで長年にわたりボール盤※を使う業務を行ってきましたが、病院での治療が必要となるようなケガを負う事故が発生したことはありませんでした。
この日も、Aさんはいつものようにボール盤で金属材に穴をあける加工作業を行っていました。作業中に頭上の照明の電球が切れていることに気がつきましたが、もう少しで終わる状況であったため、そのまま作業を継続しました。しかし、薄暗い環境のなか、手にはめていた軍手の指先部分からほつれた糸がでていたことに気づかずに、加工の際に出る鉄くずを思わず手で払ったことで、その糸がドリルに絡まり一瞬にして左手人差し指が巻き込まれてしまいました。
切断には至らなかったものの、指の感覚を失うほどの状況で、救急搬送された総合病院では「左示指末節骨開放骨折」等の診断を受け、手術をすることになりました。その後1週間の入院を経て退院後は通院にてリハビリを懸命に続けた結果、仕事に復帰できるまで回復しましたが、左手人差し指の関節が動かしづらい後遺症が残りました。
※ボール盤: 金属や樹脂、木材などの素材に穴をあけたり、掘り広げたりするための工作機械。
ケガを防ぐために
今回の事例は、①ボール盤での作業時には軍手を着用しない ②鉄くずを取り除くときは機械を停止させる ③作業場の電球が切れているときは交換する などの対応をしなければいけないところ、ベテラン従業員における長年の「慣れ」と、もう少しで作業が終わるという状況から、本来の作業手順とは異なる行動をとってしまったことにより、重大な災害が発生することになりました。
労働災害発生の約9割の原因は、「不安全行動」および「不安全状態」(※参考: 厚生労働省ホームページ「職場のあんぜんサイト」) に起因しています。「不安全行動」とは「労働者本人または関係者の安全を阻害する可能性のある行動を意図的に行う行為」、「不安全状態」とは「事故が発生しうる状態、また、事故の発生原因をつくり出されている状態」のことをいいます。今回の事故では、機械を停止せず、軍手を着用した手で鉄くずを払ったことが「不安全行動」に該当し、作業場の電球が切れていたことが「不安全状態」に該当します。
また、その背景要因として、ベテラン従業員の長年の「慣れ」と、もう少しで作業が終わるという状況があったことが考えられますが、従業員個人の問題だけではありません。
そこで、こうした災害を防ぐためには、事業者としてリスクアセスメントを行い、リスクを特定して対策を講じ、効果を検証したうえで、さらに改善するといったPDCAを回して対策を講じることが有効です。
さらに、職場内ではリスクアセスメントの結果を全従業員に周知するとともに、安全衛生教育を実施するなど、安全で快適な職場環境を確保しましょう。