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災害防止女性作文大賞(3)

現場で気づいた危険とその対策

門 知子(門水産有限会社・香川県)

私の家は漁業を営んでおり、普段は蛸とイカナゴを取っているのですが、昨年11月3日、作業員が蛸の仕掛けを海に投げ入れている時に、蛸の仕掛けを付けたロープが足に巻きついて転倒し、靭帯を切るという労災に遭いました。

幸いにして大事にはいたらなかったのですが、その後の漁では人手が減ったため、作業効率が非常に落ち、通常の漁獲量よりもかなり少ない量しか水揚げできませんでした。

今年の夏の蛸の漁期では、人手の穴を埋めるために私も漁の手伝いに行きました。
ここで私が気づいた安全上の問題点について考えていこうと思います。
まず、第一の問題となるのは足場が非常に悪いので転倒はもちろん、最悪の場合は海に転落することもあるということです。海に転落すれば命の危険も当然でてきます。

蛸を取る仕掛けは海底に設置してあるので場所にもよりますが大量の泥が付いて上がってきます。この泥は水分が多く含まれているためゲル状になっており、非常によくすべります。

他にも仕掛けの調整をする際に、一旦仕掛けをすべて船の甲板に上げるのですが、仕掛けのロープ自体が非常に長いため、甲板の上がロープと蛸壺(蛸を取る仕掛けの一部)でいっぱいになり、文字通り足の踏み場もない状態となります。必然的にロープの上を歩くことになるのですが、前述の泥とあいまって足場が非常に悪くなります。

その上、上記二つに加えて船の上ですから天候が悪い時や、近くを大きな船が通る時などは引き波で船が大きく揺れます。私も何度か転倒しそうになりました。

次に、これは漁業という仕事の特殊性なのですが、漁業という仕事は徒弟制度が強く残っています。ですから『仕事は見て盗むもの』という考え方があり、現場監督である漁務長と作業員の間で危険に対する認識が異なる場合があります。

漁務長が「これぐらいはわかっているだろう」と考えていても、作業員には正確に伝わっていなかったり、そもそもの作業に対しての理解ができていなかったりということもよくあります。

無論、危険な行動をとれば漁務長が注意を促してくれますが、それは危険な行動をとった後です。作業に取り掛かる前に危険事項の確認をしなければ防げる事故も防げません。

三つ目の問題点ですが、朝の作業開始前に、今日はどのような作業をするかという連絡がないに等しいということです。

前日にある程度の作業予定は聞かされるのですが、それは全体的なことに留まっており、自分がする作業が非常に漠然としかわかりません。場合によっては詳細な説明もされないまま作業を開始します。これでは作業効率も落ちますし、危険な作業が突如始まることになります。

以上の点が私が作業中に気がついたことです。この問題を漁務長と市販されている安全管理に関する本を参考にしながらよく話し合いました。

漁業の仕事は潮の流れの関係上、どうしても作業速度を優先せざるを得ないこともあり、どの部分は安全性を重視できるか、どの部分では効率を重視するかということを、安全を念頭においた上でじっくりと話し合ったのです。

議論は長時間に及びました。安全性と作業効率、作業速度はそれぞれが相反するファクターです。それぞれのファクターを考慮しつつ作業手順を一つ一つ確認し、安全性を高めていく。これは楽なことではありません。

議論の末、船長と私は上記の三つの問題に対してそれぞれ以下のような結論に達しました。

まず、足場の問題です。
これは個人の運動神経や作業する環境的な要因もあるのですが、各員が足元を確認し、バランスの取れる足場を確保しながら作業するということになりました。それに加えて乗船の際には、いかなる時もすべり止めの効果がある素材の長靴を着用することになりました。

次に、作業の際の危険事項の確認です。
作業開始前に作業中は何処が危険な場所になるか、どのような危険が考えられるかという二つを通達することにしました。これによって漁務長の考える「危険」と作業員の考える「危険」が一致することになり、事前知識の不備から起こる労災を防ぐことができるようになりました。

最後に作業開始前の連絡ですが、朝の始業前に今日こなす作業を詳細に伝達するために朝礼をすることになりました。これで作業員がその日にこなす作業を理解するようになり作業の効率化と危険の予測ができるようになりました。

以上の点を改善し、以前に比べて格段に安全性が高まりました。
船上で転倒してケガをした作業員の足も快方に向かっており、私たちは彼が回復して共に働ける日を心待ちにしています。

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